《 Emotional Planet 》 ——Zeo Zhang が探る AI ・感情可視化‧集合的⾵景の⽣成

 《 Emotional Planet 》は、あらかじめ⽣成された映像を提⽰する作品ではなく、来場者⾃⾝の参加によって成⽴する構造を持つ。鑑賞者は、その瞬間に抱いている感情を⾃由 な⾔葉で⼊⼒し、その⾔語データは、感情分類理論に基づく 24 種類の感情アーキタイ プを⽤いてAIによって解釈される。

ロサンゼルスを拠点に活動するクリエイティブ‧テクノロジスト/アーティスト、 Zeo Zhang にとって、⼈⼯知能とは単なる画像⽣成ツールではない。むしろそれは、⾔語‧ 感情‧⼈間の知覚の関係性を媒介するシステムとして位置づけられている。 2026 年4⽉、⻘森県⼋⼾市にて発表されたインスタレーション《 Emotional Planet 》 は、個⼈的な感情状態が、参加型計算システムとジェネラティブ表現を通じて、どのように集合的な視覚体験へ変換され得るのかを探るプロジェクトである。 本作は、アーティスト‧⾼砂ミキコによる「⼈間の感情を原型的な感情構造として整理する」という構想から始まった。その概念的フレームをもとに、 Zhang はインスタレー ション全体のインタラクティブシステムを設計‧構築。 AI ⽀援型の感情解析フロー、⽣成的ビジュアル⾔語、感情座標マッピング構造、リアルタイム参加環境を含む総合的な システムとして展開した。

《 Emotional Planet 》は、あらかじめ⽣成された映像を提⽰する作品ではなく、来場者⾃⾝の参加によって成⽴する構造を持つ。鑑賞者は、その瞬間に抱いている感情を⾃由 な⾔葉で⼊⼒し、その⾔語データは、感情分類理論に基づく 24 種類の感情アーキタイ プを⽤いてAIによって解釈される。 解析された感情は、それぞれ固有の三次元「感情の惑星」として⽣成され、ポジティブ /ネガティブ、能動/受動といった感情座標空間上へ配置される。会期を通じて、来場 者たちの感情⼊⼒は蓄積され続け、最終的には参加者全員の感情によって構成された動 的なマトリクス空間が形成された。 そこに現れたのは、単なるインスタレーションではなく、他者たちの感情が時間をかけ て共同⽣成した「集合的感情⾵景」である。⾒えない⼼理的空気が、計算システムを介して共有可能な視覚構造として⽴ち上がっていく。 其他 JP 2 本作の背景には、感情⽇記やエクスプレッシブ‧ライティング(感情表出による記述⾏為)に関する研究も参照されている。感情を⾔語化する⾏為は、感情認識や内省、⼼理 的ウェルビーイングに寄与する可能性が指摘されているが、《 Emotional Planet 》はそ れを治療的システムとしてではなく、「不可視の感情構造を社会的に可視化する芸術的 インターフェース」として扱っている点に特徴がある。 この視点は、 Zhang の実践全体にも通底している。彼はこれまで、⽣成システムを単な る制作技術としてではなく、参加‧知覚‧共有体験を設計するためのフレームワークと して扱い、計算と感情の接点を探る作品を継続的に発表してきた。 《 Emotional Planet 》において、 AI は⾃律的な創作者ではなく、⾔語と視覚表現のあい だに存在する「解釈レイヤー」として機能する。その結果として⽴ち現れる空間は、デ ータビジュアライゼーション、参加型彫刻、感情地図、社会的アーカイブの中間領域に 位置している。 また、本作において重要なのは、展⽰の開催地が⼋⼾であった点である。⼤都市圏のメ ディアアート⽂脈のみで完結するのではなく、地域の来場者と直接的な相互作⽤を⾏う ことで、メディアアートに馴染みのない参加者⾃⾝が、作品の視覚的‧感情的構造を形成する主体となった。

《 Emotional Planet 》は、参加をインスタレーションの補助要素としてではなく、作品 そのものを成⽴させる主要素材として位置づけている。 本展は、⼋⼾市のアートスペースネオ⼀平にて、「ネオ⼀平アーティスト‧イン‧レジ デンス企画 2026 」の⼀環として開催された。

 

参考⽂献 1 Robert Plutchik, “The Nature of Emotions,” American Scientist, Vol.89, No.4, 2001. 2 James W. Pennebaker & Cindy K. Chung, “Expressive Writing and Its Links to Mental and Physical Health,” Oxford Handbook of Health Psychology, Oxford University Press, 2011.

Zeo Zhang(ゼオ・ザング)

ソフトウェア開発とプロダクトデザインの両分野で活躍するクリエイティブテクノロジスト。米国でフルスタックエンジニアとして活動する一方、工業デザインを専門とし、AI、ユーザー体験設計、社会課題解決をテーマとした数多くのデザインプロジェクトを手掛ける。これまでに、国際的なデザインアワードであるIDA(International Design Awards)、MUSE Design Awards、NYX Awards、A’ Design Awardなどにおいて複数の受賞歴を有し、その革新的な発想力とデザインアプローチが高く評価される。特に、産後の母親を支援するAIコンセプトプロジェクト「MONA」では、国際的なデザイン賞で受賞を重ねるなど、テクノロジーと人間中心設計を融合した取り組みで注目を集める。

エンジニアリング、デザイン、ビジネスの視点を横断しながら、社会に新たな価値を生み出すプロダクト開発に取り組んでいる。

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