古い楽器を、音の出る状態で次の世代へ渡す。中国新聞網が10月5日に紹介したのは、重慶で古琴の制作と修復を続ける台湾出身の職人、鄭徳宣氏だ。速さや新しさが注目されやすいものづくりの世界で、一張の楽器に長い時間をかける仕事からは、音楽を支える別の時間感覚が見えてくる。

新たに作る技術と、古い音を残す技術
中国新聞網掲載の中新社・鍾旖記者の記事によると、鄭氏は台湾の新竹出身で、2016年から重慶で活動している。制作には最短でも一年半をかけ、木材の加工だけでなく、漆を用いる工程や弦を張った後の調整まで積み重ねる。
古い楽器の修復では、ひびや変形を一律に直すのでなく、製作された時代や土地、作り手の特徴を踏まえて方法を考えるという。同記事では、木材の選定に古く安定した桐や杉を重視することも紹介されている。形を整える前の材料選びから、音を生み出すための判断が始まっている。鄭氏は演奏できる状態で楽器を伝えることを重視し、学生にも技術を教えている。記事が伝えるのは、一人の職人の作業と継承の実践だ。新品を作る仕事と、既にあるものを長く使えるようにする仕事が、同じ工房の中でつながっている。
七本の弦で、響きの違いを聴く
古琴は「こきん」、中国語では「グーチン」と呼ばれる弦楽器。ユネスコの紹介では、七本の弦と十三の目印を備え、三千年以上の歴史を持つとされる。古琴とその音楽は2003年に傑作宣言の対象となり、2008年に無形文化遺産の代表一覧表へ記載された。
響きの違いを知るには、弦をそのままはじく音、指で押さえて出す音、軽く触れて生むハーモニクスに耳を向けるとよい。ユネスコの解説もこの三つの奏法を取り上げ、左手を滑らせる動きや装飾音を説明している。同じ楽器でも指の触れ方によって音色や余韻が変わるため、録音と演奏映像を見比べることが理解の助けになる。
大きな編成の音楽に慣れている人なら、まず一つの音が鳴り始めてから消えるまでを聴いてみたい。旋律を覚えることに加えて、弦を押さえる位置や手の動きを観察すると、楽器の構造と演奏の関係が見えてくる。
写真で見る、明代の古琴のかたち
本記事の写真は、鄭氏の工房のものではなく、米メトロポリタン美術館が公開する1634年製の古琴である。同館の記録では魯王に関連する楽器とされ、木、漆、玉、絹糸を素材に用い、長さは118.5センチ。作品番号は1999.93だ。
表面に並ぶ目印と七本の弦、長く伸びる胴体を見てから演奏を見ると、説明だけではつかみにくい大きさや形をイメージしやすい。同館の解説によれば、背面には製作に関する印や年記、詩なども残る。楽器は音を奏でる道具であると同時に、文字や素材に作り手と持ち主の文化をとどめる資料でもある。
古い品物をただ「昔のもの」と眺めるだけでは、制作や修復に必要な判断は見えにくい。年代、材質、寸法、刻まれた文字といった手掛かりを一つずつ読むことは、工芸や美術を学ぶ人にも通じる観察の方法だ。
古琴の音は、宇宙探査機にも載せられた
古琴には、宇宙探査との意外な接点もある。NASAの公式収録曲一覧には、ボイジャーのゴールデンレコードに関平湖の演奏する「流水」(Flowing Streams)が収められている。演奏時間は7分37秒。同じ一覧には、日本の尺八奏者・山口五郎による「鶴の巣籠」も記載されている。
NASAのレコード解説によれば、地球の生命と文化の多様性を伝えるため、自然音や音楽、55言語のあいさつなどを収録した。異なる土地の音を一枚に集めるこの試みは、伝統音楽を国や時代を越えて聴き比べる入り口にもなる。
工房の記事から、自分の耳で確かめる体験へ
鄭氏の仕事を知り、歴史的な楽器の写真を見て、演奏を聴く。この順番で古琴に触れれば、伝統文化は年表の知識だけでなく、素材と手の動き、耳に残る響きとして近づいてくる。ユネスコの紹介ページには映像もあるため、初めて触れる読者は、文字の説明と実際の音を行き来しながら確かめてみてください。
多元ニュース編集部/2026年10月7日。中国新聞網の2026年10月5日付報道を起点に、ユネスコ、美術館、NASAの資料で背景を補った紹介記事。



